東日本大震災復興支援企画 CD
「小杉太一郎 カンタータ大いなる故郷石巻」

CD「小杉太一郎 カンタータ大いなる故郷石巻」

  東日本大震災後、暫くの間、石巻の親戚(父の従兄姉達)は皆、安否不明で連絡も取れず心配ばかりが募っていた頃、普段はメールの妹がめずらしく電話をよこした。
 パパの曲とか使って、何かチャリティーみたいな、コンサートとか出来ないかなぁ・・・。
まぁ内容はともかく、暗中模索の五里霧中だということだけはよーくわかった。
妹の性分である。恐らくお尻がムズムズして、じっと腰掛けてなどいられないのだ。
私も似たようなものだった。椅子に座ってテレビを観ている自分への妙な罪悪感と、只々漠然とした手持ち無沙汰感を毎日味わっていた。
 電話は長引いたが結論など出るはずもない。こういう雲をつかむような話を気軽に相談でき、本気で考えてくれそうな知人は「彼」しか居ないことだけを確認し、電話を切った。
 

 私共小杉家がノーガードのお付き合いさせていただいている方々の中で、最も若く、最も行動力があり、最も熱くて、最も無茶だが、何より父の音楽に最も深く関わっている出口寛泰さんに連絡を取った。
 
 非売品だったカンタータのLPをCD化して販売し、売上益を全額石巻市に寄付するというのは如何でしょう、と出口さんの答えは呆れ反るほど明快だが、なるほど無茶なことをおっしゃる。
 彼の頭の中で既に話は完結しているようだが、著作権法に少しでも関わったことのある者なら、この提案がいかに実現困難なものか容易に想像がつく。信用も実績もない一個人ならば尚更である、とここまで考えて、はたと思い当たった。
自分は確かに信用も実績もないのだが、彼は違うのだ。
 
 「池野成の映画音楽」というCDを御存知だろうか。
 父の生涯を通じ最も親しかった友人の一人、池野成さんの幅広い創作活動の内、作品数という観点からすれば最も大きな割合を占める映画音楽の一端を知る上で第一級の資料となるCDである。企画・制作 出口寛泰。制作者の執念が迸るこの4枚組CDを彼はたった一人で企画し、制作し、構成し、宣伝し、販売まで行った。初回分は完売、再版分も完売したが、現在は残念なことに販売を中止している。
 このCDを発売していたレーベルが「Salida」である。晩年スペインに強く惹かれていた池野成さんが名付け親だそうだ。
 何て読むんですか? あっ「サリーダ」ね。
 意味は? 「出口」・・・・・・ですか、あぁスペイン語でね(なるほど)。
 
 
 昭和48年に録音されて以来、我が家の倉庫の奥で眠り続けていた2本のテープには、石巻市民の、故郷石巻を想う「熱」が、驚くほどの瑞々しさで収められていました。
 今、この「熱」がテープから解き放たれ、復興へ立ち上がらんとする方々の「気」をほんの僅かでも後押しすることができるならば、これに勝る喜びはございません。
 小杉太一郎の遺族一同は、出口寛泰さんのこれまでの実績とその行動力に敬意を表して、カンタータ大いなる故郷石巻のCD制作及び販売をSalidaレーベルにお任せすることとし、その売上益を全額、東日本大震災復興義援金口座に寄付させていただくことにいたしました。
 今回CD化する音源は、石巻市が原盤制作する際、予備のため同時に作ったサブマスターですから、当然その収益も石巻市が独占して然るべきもので、当初私共もそのように考えておりましたが、互助の精神に富む誠に寛大なるご決断を賜り、東日本大震災復興義援金口座への寄付を御承諾いただけました。
 無理なお願いをお聞き届け下さった石巻市の皆様に深く深く感謝申し上げます。
 さらに、私共の趣旨にご賛同下さり、ご協力いただいた権利者の皆様、ご尽力いただいた関係者の皆様に対しましても、心より感謝申し上げます。誠に有難うございました。
 
 これから先の顛末につきましては出口さんの筆にお任せしたいと思います。

 

小杉太一郎 長男  小杉隆一郎

▲ 「カンタータ 大いなる故郷石巻」初演 練習風景

小杉太一郎氏(写真左)

CD「小杉太一郎 カンタータ大いなる故郷石巻」   制作について

 上記小杉隆一郎氏文章のとおり、東日本大震災復興支援のために何かチャリティー活動が出来ないだろうかという御相談を頂きました。
 
 御相談を受け、まず考えたのは小杉太一郎氏が故郷石巻に捧げた「カンタータ大いなる故郷石巻」のことでした。
 「カンタータ大いなる故郷石巻」はこれまで1973年の初演と1983年の再演がレコード化されていますが、中でも1973年の初演盤は小杉氏立会いの下に創り上げられた非売品であったという意味でも貴重なものです。
 そこで、初演版レコードをCD化し、その売り上げを被災地への義援金とする案を御提示させて頂きました。しかし、初演版レコードのマスター音源の保管場所は不明の状態であり、石巻に保管されているという確率は高いものの、確実に無傷で存在する確証はなく、いずれにしてもマスター音源の発見には至りませんでした。
 
 そのため、現在行える最良の手段と信じ、苦渋の決断として“レコードの再生音”をマスターとしてCDを作成することを検討致しましたが、そのことは初演版レコードの作製を行った会社の権利を侵害することになり、御了承を得ることは叶いませんでした。ただ、レコード製作会社の資料から原盤権は石巻市に帰属することが判明しました。
 
 万事休す、この企画は叶わないかと諦めかけていた時、以前より行って参りました小杉太一郎氏の調査・研究活動の中で「カンタータ大いなる故郷石巻」初演(小林研一郎指揮 東京交響楽団 石巻合唱連盟 ソプラノ:伊藤京子 バリトン:友竹正則 朗読:山内明)のサブマスターテープが発見されたのです。
 
 即座にこのサブマスターテープのCD化に切り替え、石巻市文化協会会長である、西條允敏様の御尽力により、石巻市総務部総務課を通じ、石巻市から原盤の再使用について御承諾を賜れましたことを受け、本CDの制作が決定致しました。
 
 本CDの売上益は全額、東日本大震災復興義援金口座へ寄付させて頂きます。
 
 制作にあたり、権利使用料が発生する皆様には、CD制作者側に金銭的利益が一切発生しない募金活動であることを特に御理解頂きまして、小林研一郎様、東京交響楽団様、伊藤京子様、友竹正則様の権利関係者様、山内明様の御遺族様、“大いなる故郷石巻”の作詩者 石島恒夫様の御遺族様、の皆様から無償で御協力頂けるという御厚意を賜りました。
 
 また、その他多くの方々の御尽力を賜り、この度、CD「小杉太一郎 カンタータ大いなる故郷石巻」は間もなく完成の運びとなりました。
 この場を借りて心より御礼申し上げます。
 
 本企画によって、これまで一度もCD化されることの無かった石巻所縁の作曲家 小杉太一郎氏の代表的作品が広く知られ、そして何より、被災者の皆様の一日も早い復興に、少しでもお役に立てますよう引き続き努力して参ります所存でございます。
 
CD「小杉太一郎 カンタータ大いなる故郷石巻」
 
企画/制作 出口寛泰(Salida)
▲▼ 発見された「カンタータ大いなる故郷石巻」初演サブマスターテープ
※本企画 CD「小杉太一郎 カンタータ 大いなる故郷石巻」関連頁につきましては、少しでも多くの方々にその存在を知って頂きたいという考えから、より多くの方にリンクして頂ければ幸いと存じ上げます。